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大阪高等裁判所 昭和52年(行コ)13号 判決 1979年2月28日

控訴人 伊丹税務署長

代理人 細川俊彦 西田春夫 ほか三名

被控訴人 的崎修

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が被控訴人に対して昭和四五年一二月一五日付でした被控訴人の同四二年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は課税総所得金額一九、四四一、〇〇〇円を基礎として算出される各税額を超える限度においていずれもこれを取消す。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて五分し、その三を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事  実<省略>

理由

一  当裁判所は、末尾に記載するとおり被控訴人の請求の一部を正当としその余を失当と判断するものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。

(一)  <証拠略>

(二)  同二二枚目表五行目「外業・技術面」を「諸業務」に同裏四行目「表(四)、(五)」を「表(三)、(四)、(五)」に、同五行目「その職業柄」を「それほど」に改める。

(三)  同二五枚目裏九行目「である」の次に「(最一小判昭五一・二・二六・訟務月報二二巻七九八頁参照)」を挿入する。

(四)  同二七枚目裏三行目「また原告は」以下を「なお被控訴人は前記のとおり右退職金の支給を受ける約二年前に法人税法上の役員となつたものというべきであるが、しかしそのことは、その際同人が使用人を退職したことを意味しない。けだし法人税法上の役員になることと使用人を退職することとは別個の概念であるからである。本件において被控訴人が使用人を退職したと評価し得るのは、同人が昭和四二年一〇月使用人から再度商法上の取締役に昇格して本件退職金を受給したときであるというべきである。したがつてもし本件退職金が真実使用人退職金であるならば、大正金属において損金経理をなし得る年度は本件事業年度であるということができる。そして以上のことは、国税庁長官の旧法人税基本通達(昭和二五年直法一―一〇〇)の二七五(それは昭和四四年直審二五・九―二―二五に引き継がれた)に『法人の使用人がその法人の役員となつた場合において、当該法人がその定める退職給与規程に基づき当該役員に対してその役員となつた時に使用人であつた期間にかかる退職給与として計算される金額を支給したときは、その支給した金額は、当該使用人の退職により支給する退職給与の額とする』とされていることによつても一部裏づけられるものといえよう。

こうしてみると、本件退職金は、その名目どおり、退職給与たる一面を有することは否定できないというべきであるが、それにしても、右金員の全部が退職給与であるとする被控訴人の主張については、前記法人税法の規定の趣旨に照らし、更に検討を要する。<証拠略>によれば、大正金属所定の退職給与規則に基づき昭和四二年一〇月末現在で算出した被控訴人の退職金の額は二、六九〇、四四〇円であることが認められるところ、右金額のみが退職給与の額であるとする前記昭和二五年直法一―一〇〇通達の二七五は、本件の場合においては不適切であると解せざるを得ない。けだし、<証拠略>によれば、大正金属の退職金給与規則は昭和三一年一一月二日施行のものであつて、会社に特別な功績のあつた者に対する退職金の加算の制度もないことが認められるところ、前示のとおり被控訴人は松川と共に会社の大功労者と認められていたうえ、かつては会社の商法上の取締役でもあり、昭和四二年一〇月現在において従前分の退職金の打切支給を受けるとすれば、商法上の取締役であつた期間をも含めて従前の勤続期間全部についての退職金の打切支給を受けることになるわけであつて、前記退職金給与規則は、このような特別の場合をも予想して作成されたものであるとは到底解し難いからである。このような場合にも、退職金給与規則を改正したうえでなければ退職給与と認めるべきではないという見解も存する(昭和四四年直審二五通達・九―二―二六参照)かもしれないが、松川及び被控訴人のような事例が大正金属において再び発生することは殆んど考え難いことであるのに、右両名だけのために退職金給与規則の改正を求めることは、実情に即しないものというべく、要は被控訴人に退職金名義で支給された二〇、〇〇〇、〇〇〇円中、退職給与として社会的な妥当性を有しているものがどれだけかを判定すれば足りると解すべきものである。ところで<証拠略>によると、関西経営者協会の昭和四二年度退職金調査報告書によれば、従業員数五〇〇人未満の会社(いわゆる中小企業)八五社を対象とした調査結果では、大卒、勤続二五年の場合の退職金の平均は高率のとき(会社都合による退職等のとき)でも二、一二七、四〇〇円に過ぎないことが認められる。しかしながら、同時に右報告書(控訴人は右報告書のうちの一部を書証として提出するのみである。しかしその全文が、労務行政研究所刊・労政時報一、九四七号昭和四三・七・一二に掲載されていることは当裁判所に職務上顕著である)によれば、退職金は一般に退職月の基本給と勤続期間とに応じて算出されるものであるところ、右報告書では退職月の基本給の平均額は明らかではないが被控訴人のそれとは比較にならないほど低額であることは明らかであるから、右二、一二七、四〇〇円という額は被控訴人のように退職月に二七五、〇〇〇円という高額の基本給(それが基本給であることは前掲甲第四号証の一一のAで認めることができる)を受けている者が支給を受けた退職給与の額の妥当性を判断するうえで参考とするのに適切な金額であるとは解されない。そして他に適切な資料もないので、被控訴人の退職時(正式に取締役に就任した昭和四二年一〇月)の基本給月額二七五、〇〇〇円勤務年数二〇年八月という事実に国家公務員等退職手当法四条、七条の規定を当てはめて国家公務員の場合の退職手当を算出してみると、別紙計算書のとおり七、六三一、二五〇円となることが認められる。そしてさきに認定したような事情に徴すれば、被告訴人が退職給与として受領したもののうち少くとも右の限度までは退職給与として社会的妥当性を有するものというべきである。してみると、被控訴人が退職金名義で支給された二〇、〇〇〇、〇〇〇円中七、六三〇、〇〇〇円は退職給与であると解するのが相当である。

してみると、控訴人が被控訴人に対し、昭和四二年分の所得税につき昭和四五年一二月一五日付でした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、課税総所得金額の確定申告額七、〇七一、〇〇〇円を二七、〇七一、〇〇〇円であるとして更正した部分及びこれを前提とする部分は、一九、四四一、〇〇〇円(すなわち二〇、〇〇〇、〇〇〇-七、六三〇、〇〇〇+七、〇七一、〇〇〇円)を基礎として算出される各税額を超える限度においていずれも違法であつて取消を免れないが、その余の部分の取消を求める被控訴人の請求は失当である。」と訂正する。

二  しかるに原判決の結論は一部これと異るから原判決を変更することとし、行訴法七条、民訴法九六条、八九条、九二条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 谷野英俊 乾達彦 西田美昭)

(別紙)

国家公務員等退職手当法に基づく

的崎の退職金計算書

1) 退職の日における俸給月額 275,000円

2) 勤続期間

昭22.3~42.10 20年8月→21年

(法7条2、6項)

3) 退職金額

法4条1項1号 10×275,000×125/100=3,437,500

2号 10×275,000×137.5/100=3,781,250

3号 1×275,000×150/100=412,500

計 7,631,250円

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